1月某日、朝の通勤電車内で座席に座りながらうとうとと微睡んでいると、横浜あたりだろうか、1組3名様のご婦人ご一行が僕の前に並び、お話を始める。会話のそこかしこから推察するに、どうやら百貨店勤務の同僚同士のようで、おそらく今日に限って別の店舗へ向かうようだ。
ぼくは気持ちよくうたた寝をしていたので導入部分は聞き逃してしまったのだが、今はとにかく “広瀬すずが大好きで、将来絶対美魔女になるに違いない” という熱のこもった解説を婦人A(たぶん関西ご出身)がしている最中。
婦人A「最近ほんとすずちゃん良いのよ。ドラマ観た?」
婦人B「観た観た。どうしてあんなにお人形さんのようなのかしらねぇ」
婦人C「ほんとねぇ」
婦人A「昔からはっとするような美人だったけれど、このまま絶対に美魔女まっしぐらよぅ。美魔女と言えば深田恭子ちゃんもほんと若い頃から変わらず綺麗よねぇ。ほんと惚れ惚れしちゃう」
婦人B「深キョンも綺麗なままよねぇ」
婦人C「ほんとねぇ」
婦人A「一日だけその人になれるとしたら誰になりたい?」
婦人B「一日だけか。綺麗な女優さんになれるのならば誰が良いかしらねぇ」
婦人A「やっぱり健康的なセクシーさって言うの?そういうタイプに憧れるわよ。誰だっけ、ちょっと名前ど忘れしちゃったけれど最近は時代劇に出てたりする女優さん」
婦人C「由美かおるとか?」
婦人A「ちょっとぉ。古すぎるわぁ。いつの時代やねんっちゅうツッコミ入れるわぁ」
婦人C「わざとボケたのよぅ。ふふふ」
婦人B「えー?誰だろう?」
婦人A「そうそう、中井貴一のドラマにも出ていたわねぇ。名前何だっけ、こういうのほんと出てこなくなるわよねぇ。嫌やわぁ」
婦人B「そうそう、私は内山理名みたいな感じも良いわよ。彼女も健康的じゃない?」
婦人A「内山理名って誰だっけ?あぁ、吉田栄作と結婚した子よね。はいはい」
婦人C「吉田栄作も若い頃からちっとも変わらないわよね。」
という具合に、その後も吉田栄作前夫人の顔がボトックスでどうしたこうした・・・と、どんどん転調しながら続いていく。
朝の通勤電車内なので他に会話をしている人もおらず、付近半径5m以内の他の乗客の皆さんも含めて「最近は時代劇にも出てる健康的なセクシーさが引き立つ女優」って結局誰だろうと各自考察をしていたに違いない。もはや眠気は忘れ、さっきまでご婦人方ご一行(主に婦人A)が必死に思い出そうとしてた女優さんの名前を、親切心から僕も考えるようになった。芸能関連についてあまり詳しくないけれど。
やがて乗り換え駅に着き、やむを得ず席を立ったのだが、もっと早くに席を譲って話を分断する環境(一人着席させる)にすれば良かったかも知れぬ。「こういうのほんと出てこなくなるわよねぇ」で諦めてしまったご婦人たちの思考を引き継ぐ形で、今日一日「誰だろう?」と思いを巡らすことになるのだろうか?そんな命題を半径5mにいる人たちに投げかけたまま、既にまったく別の話題で盛り上がっているご婦人ご一行を背に、それぞれの仕事へと向かうのだった。
せめてその場でスマホ等で調べて答えを導き出してほしかったなぁ。結局誰なんでしょ?
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