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  • 凪良ゆう「汝、星のごとく」と「星を編む」読了

    3月某日、凪良ゆうの2023年本屋大賞作品「汝、星のごとく」と、スピンオフである「星を編む」を続けて読み終える。率直な感想としては、ここ一年で読んだ作品の中ではずば抜けて良い物語であったと思います。彼女の作品はこれまで「流浪の月」と「滅びの前のシャングリラ」を読んでいて、どちらも作者らしい美しい日本語の一つ一つが紡がれていくストーリーが心に響いた良作だったのですが、本作「汝、星のごとく」もこれまた素晴らしいと感じました。表面的には瀬戸内の島の高校生2人の人生譚であるのだけれど、恩師にあたる人物が大きく関わってきていてもはや3人目の主人公と捉えても差し支えない。また、その3人の人生に関わる周囲のキャラクター描写もリアルかつ悲哀と情愛に満ちたもので、読み終えた後、僕も人(特に家族や近しい人)には常にやさしくありたいと改めて思った次第です。こんな作品に出合うと、自分も何か書いてみたいと思っちゃうよ、ほんの一瞬だけ。書かないけれど。

  • 森博嗣「オメガ城の惨劇」読了

    2月某日、森博嗣の「オメガ城の惨劇」を読み終える。例によってすでに3月も終わりだけれど、先月のお話。これまでの何らかのシリーズに属するものではなく、シリーズ外の作品という位置づけのようだが、サブタイトルにもあるようにサイカワ先生は出てくるし、マガタ博士も実際にほんの少し登場するので、S&Mなどを読んでいるで読者にとっては馴染みのある世界観と言える。

    序盤でどこかの海外が舞台なのかと勘違い(あるいはミスリード)していたのだが、途中で例の研究所らしき建物が出てきて、あれもしかしてあの島のことかしら?とイメージが追い付いてから以降は、過去に読んだ各シリーズのエピソードを思い出し、非常に面白く読み進めることが出来た。

    絶海の孤島の城で連続密室殺人(というか同時に4人)という設定だけをみると、最近の森らしからぬ本格ミステリィなのかと思うところだが、あっと驚くようなトリックを弄する仕掛けではなく、一人ずつ死んでいくのが恐怖を誘う、ありがちな連続殺人という枠組みについてはあっさり非効率と切り捨て、一気に4人の殺人が起こるという内容は非常に理屈が通っていて、作者らしさが存分に味わえる作品だと感じた。

    まぁ、本作で描かれているサイカワ先生については「あれおかしいな、むしろあいつみたいだな」と疑いながらページをめくっていたので、最終的には「ほれ見たことか」と思ってしまったのは僕だけではないだろう。長く待ち望まれているGシリーズ最終巻「ω(オメガ)の悲劇」を放置して、思わせぶりに本作を刊行してしまう作者に僕はいいようにもてあそばれているに違いない。

  • 森博嗣「百年シリーズ」3部作読了

    1月某日、森博嗣の「百年シリーズ」全3作を読了する。2作目までは主人公のサエバ・ミチルと相棒のウォーカロン(自律型ヒューマノイド)のロイディによる冒険譚で、100年後の近未来設定のSFかつファンタジー要素が強い物語。

    ミステリーとして考察をしながら読み進める要素はあるけれど、事件の真相を追求するという表面的な内容よりも、死生観や人間とは何か「我思う、故に我在り」(仏: Je pense, donc je suis)という哲学的なテーマにも重きをおいて全編を通し描かれているような印象。しかし、あくまで冒険譚という形をとっているので、物語として読みやすくNHK-FMでラジオドラマ化もされたようだ。

    問題はシリーズ最終作となる3作目。前作までのキャラクターは主人公を含めて登場せず(少なくとも表面的には)、登場人物の視点がどんどん時空をも超えて切り替わっていくスタイルで、一見すると「何を読まされているのか」分からなくなる。森曰く、幻想小説のつもりで書いた作品とのことだが、作者の壮大な思考実験に付き合いながららトレースし同化していく、いわば読者が「ついてこれるかな」と試される1冊になっている。シリーズとして成り立っているのかどうか、については、作者が伝えたい「モチーフ」としての統一感はあるかも、と、ぎりぎりぼくの思考能力でも何とか思えるので、これが一つのまとまったシリーズであると規定されればそうなのだろう、という感じ。いやいや、ほんと難解。

    今自分が生きていると感じている「現実」は果たして本当に現実なのか、そこに疑うべき点は一つもないのだろうか、という問いを究極的には読者に突き付けているような感じがする。作中で描かれている設定が「物語としての作者の幻想」ではなく「真実・真理」だと誰かに提示された場合、「絶対にありえない」と100%否定しうる論理的思考能力をぼくは持ち合わせていない。

  • 森博嗣「Xシリーズ」全6作読了

    1月某日、森博嗣の「Xシリーズ」について全6作を読了しました。前回読んだ「Gシリーズ」(未完結)と作中の時系列が重なる時期のエピソードで、他シリーズから引き続き登場するキャラクターもおり、同じ世界観での物語として楽しく読むことができます。主人公をはじめメインのキャラクターは美術品鑑定&調査を業務内容とする事務所のスタッフで、美術品鑑定と調査(探偵)といえば森作品で毎度お馴染みのあの人物がその事務所の社長(代表)で、ただし、警察やある人物からは常に身を隠すようにしており、そもそも普段から事務所にほとんど顔を出さない謎多きキャラ、といった設定。

    事務所へやってくる調査依頼などから殺人事件などに巻き込まれ…といった展開のいわゆる探偵ものであるのだけれど、他の森作品同様に登場人物同士のウイットに富んだ会話であったり、論理思考の明晰さ(推理段階での飛躍も多いが)だったりが非常に面白く、シリーズ最終作では主要キャラが(どうやら)ハッピーエンドを迎えそうな描写などは、読者にとっても感動を覚えるようなある種の大団円を迎えることとなり、本シリーズだけを読んだとしても満足を得られると思います。最終作のラストを経て、引き続き探偵事務所ものとして「XXシリーズ」へと物語は進むようなので、次は「XXシリーズ」を読んでみよう。

    どうやら今年も良いペースで本を読んでいる感じ。通勤時間長いからね。

  • 森博嗣「Gシリーズ」11作読了

    1月某日、これまで「S&M」「V」「四季」と読み進めてきて、4シリーズ目となる「Gシリーズ」についても現在発表されている11作目まで読了しました。従来のシリーズ名は作中の主人公ないし重要人物のイニシャルからとられていましたが、本シリーズの「G」は登場人物由来ではなく、それぞれの作品内でギリシャ文字をモティーフとする事件や出来事が描かれ、“ギリシャ” の頭文字から「Gシリーズ」になったよう。ここから読み始めても楽しめるようにはなっているものの、過去シリーズから継続して登場するキャラクターも多く、やはり「S&M」→「V」→「四季」→「G」と読み進めるのが良いでしょう。

    1話完結というスタイルよりは、刊行順にシリーズを通して読ませるような狙いを感じ、しかもシリーズの締めくくり(らしい)となる第12作目は未だ発表されておらず、森博嗣ファンの間ではまだかまだかと首を長くしながら最終巻を待っている状態のようですね。また、1~9作目と10作目以降(後期三部作と設定されているらしい)の間で明らかにターニングポイントがあります。さらに、作品世界内の時系列としては本シリーズの途中で「Xシリーズ」と並行するらしいので、とりあえずは新たなシリーズへと移行しながら気長に最終作を待つことにしようと思います。

  • 森博嗣「四季」4部作読了

    「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」に続けて、天才科学者・真賀田四季の視点から主に描かれる4部作を読み終えました。中盤ではこれまでのシリーズの伏線や同じエピソードでも主体が変わるとまた違った印象になるところが面白い。6歳において数学と物理をマスターし超一流のエンジニアになり、13歳においてはプリンストン大学でマスタの称号を得つつ、MITで博士号も取得するほどの知性とはもはや想像を超えている。すべてを一瞬にして理解し、把握し、思考する能力ってどんな感じなのだろう。真賀田博士の脳内処理の描写が現実を離れて精神世界に突入するかのように表現されているので、憧れ以上に恐怖、畏怖を感じる印象として、ぼくの中にもずっとこのまま残り続けるだろう。果たして四季は生きているのか、すでにこの世に存在しないのかという論点ではなく、確かに彼女が存在し、様々な命題に対してどのような答えを彼女は出したのか、という点が読者の解釈に委ねられるようで、非常に読み応えのある作品と言えるでしょう。

    もう少し、著者の作品を読み進めようと思います。次は「Gシリーズ」へ突入。

  • 森博嗣「Vシリーズ」読了

    12月某日、森博嗣のVシリーズ全10作品を読み終える。同じく森の「S&Mシリーズ」はだいぶ前に楽しみながら読んだのですが、このVシリーズは劇中の登場人物も異なり、結構珍しい名前のキャラクターが多いようだったので食指が動かないまま時間が経過していました。最近まで読み漁っていた佐藤正午作品にひとまず区切りがついたので、ふと思い立って試しにVシリーズの1作目を読んでみたところ、主人公(探偵役)とその仲間たちだけでなく脇を固める警察陣や犯人、被害者まで、名前だけではなくそれぞれ一癖も二癖もあるキャラが勢ぞろいで、あっという間に楽しく読むことができました。あとは続けて2作品目以降もシリーズ一気読み。

    シリーズ後半で以前のシリーズ(S&M)との交わりがあったり、最後の10作品目では、例の「天才」の影がちらりと出てきて新シリーズへの布石となるなど、森作品を読んだことのある読者にとってエンタテインメントとして楽しめる仕掛けがたくさんある作品群でした。推理小説として純粋に犯人や犯行方法、動機を考察する読み方をしたり、トリックの粗を探すような無粋なことはせず、やはり理系のアプローチから「よくもまぁこんなプロットを考えたもんだ」と楽しみつつ、個性的な登場人物のやり取りや内面描写に笑ったり共感したりしながら読み進めるのがよいでしょう。

    そして僕は「四季」4部作へと進んでいく。

  • 貴志祐介「新世界より」読了

    10月某日、貴志祐介の大長編SF「新世界より」を読み終える。ダークファンタジーもので、かつ主人公の成長物語でもあるこの作品。各種の設定や作中の用語を抑えるまで少し難解で時間を要するものの、特に中盤以降の怒涛の展開はかなり読み応えあり。まぁ作品のボリューム自体相当なものなのだけど。

    昔読んだ「漂流教室」とか最近だと「進撃の巨人」なんかにも通ずる世界観(個人の感想です)で、あっという間に読み進めることができた感じ。こんな作品を書いてみたいものだ。

  • 『ずっとあなたが好きでした』読了

    4月某日、歌野晶午『ずっとあなたが好きでした』を読み終える。舞台も主人公のプロフィールも様々な10数編の短編からなる本作、読み進めているうちに少しずつ違和感を感じていき、最後から二つ目で全て回収されつつラスト一編へと続く構成。途中で「おそらくこういう仕掛けではないか」と想像できつつも、一つ一つの設定が凝っていて中々面白く読み進めることができた。主人公にシンパシーは感じないし感じてはいけないお話なのだが、とにかく「しょーがねえ奴だな」と苦笑せざるを得ない。

    某公共放送の朝ドラや大河ドラマの視聴を完走したような読後感なのだけれども、いや絶対映像化しない(破綻するのでキャスティングできない)だろうなぁという、懲りない男(たち)の物語だった。

    オチが分かった上で、もう一度、今度は各短編の順序を変えて読んでみるのが面白いだろうね。